彼女






 シャワーを浴びることも無く、僕は夢中で彼女を抱いた。

 寒い夜、ぽつんと一人立っていた彼女に僕が声をかけて、それから彼女が僕の手をとってこのホテルに入った。今日会ったばかりで名前も知らない。好きな食べ物も、好みの音楽だって知らない。でもそんなことは重要じゃない。重要なのは彼女が見たことも無いほど綺麗だってことと、今まで抱いたどんな女よりも激しいってことだ。

 ベッドに入り、まず僕の愛撫で彼女を熱くさせる。ここでのキスは卑猥であればあるほど良い。チュパチュパ音を立てながらお互いに舌を吸う。それと同時に服を脱がせ、体をいやらしく撫で回す。女の一番感じる部分にも手を伸ばし、最初は微かに触れるくらいに柔らかな刺激を与える。
「気持ち良いの?」
 僕の言葉に彼女は頬を染めて顔を手で覆った。それが僕の動物としての本能をかき立てる。僕はまた熱いキスを求め、顔から首筋、乳首、脇、腹、太股、足の指まで全身をくまなく舐め回し、歓喜に濡れた彼女の奥に指を、舌を滑り込ませる。

 彼女はちゃんと礼儀というものを心得ているようで、自分が気持ち良くなった後は僕に素晴らしいプレゼントをくれる。今度は彼女が僕の上に乗り、上から下までベロベロと舌を這わせる。でも肝心の場所はそう簡単には舐めてくれない。まさに女王のような笑みを浮かべる彼女が求めるものは、僕の感じている顔と、懇願。それが分かってるから、僕は限界まで我慢する。焦らされる快感に耐え、下の方から湧き出てくる渇望の声に精一杯抵抗する。
 やがて全身に駆けめぐる快感と焦燥に抵抗する力を失った僕は、女王に屈服した。跪いて、羞恥心で情けない涙すら浮かべながらこう言うんだ。
「お願いします!その美しいお口で僕のモノをしゃぶってくださいっ!」

 そんな僕好みの遊びが終わると、今度は戦いだ。僕は熱くそそり立った剣でもって彼女の城に攻め込む。始めは甘く吐息を漏らすようだった彼女の声も次第に激しさを増していき、僕の攻撃が軌道に乗ると叫びにも似たわいせつな音へとすり替わる。それを聞いて僕の中のサディスティックな部分がまた目を覚まし始める。
 どうせ今日という日が終わればもう会うことも無い。会ったときからそう感じていた。だから彼女を壊すつもりで突いて突いて突きまくる。彼女の体がびくんと痙攣し、絶頂を示しても僕はお構いなしに突き続けた。勝利者の特権だ。物と化した彼女の体を裏返しにし、足を持ち上げてさらに突いた。
「メス犬にはこの格好がお似合いだよ。」
 ああ、今日は最高の夜だ。





 ホテルに入ってからどれくらい経っただろうか。とにかく僕は十分に満足して、乱れきったベッドの上で余韻に浸っていた。彼女もようやく気が付いたらしく、ごそごそと動いて僕の横にやってくる。ふんわりと汗と香水の入り交じった香りが鼻を突いた。

「ねえ、裸の王様って知ってる?」
 彼女が唐突に口を開く。予想していなかった言葉に僕は少し戸惑いながらも、それが彼女に悟られないように平静を装った口調で答えた。
「ああ。馬鹿には見えない服ってやつ?」
「そう。」
「それがどうかした?」
 彼女はそれには答えず、ただ不敵に笑うだけだった。僕は何となくそんな彼女が怖くて、逃げるようにシャワーを浴びにバスルームへ向かった。

 戻ってきた僕が何気なくベッドの方へ目を移すと、さっきまで熱く激しい夜を過ごしていた彼女の姿は無く、ゴミ箱に捨ててあったはずの、ゴムに収まった白い液体をズルズルとすする、彼女の皮を脱ぎ去ったシワだらけの老婆の姿があった。老婆は僕が戻ってきたのを見ると液体をすするのをやめ、歯の抜け落ちた汚らしい口を開いてこう言った。
「おかえり、裸の王様。」



「馬鹿には見えない服、か。」
 僕は笑って、これまた今日会ったばかりの、名前も知らない若い男の顔に手をかけた。